6月4日(日)クチナシの香り

クチナシの香り

薄月夜 花くちなしの 匂いけり

これは俳人の正岡子規が、雨雲で月も薄れてしまう夏半ばの夜に、ふとクチナシの花の香りを感じた様子を詠んだものです。

俳句にも表れているように、その白く可憐な姿以上に「甘い香り」の際立つクチナシ。春のジンチョウゲや秋のキンモクセイと並んで「三代香木」と呼ばれ、現在でも多くの香水に用いられています。

また、クチナシの実は黄色い色素を含有し、天然の食用着色料としても利用されています。サツマイモや栗の甘露煮、たくあんなどの着色で古くから私たちの生活を彩ってきました。

〈学生の頃に嗅いだ懐かしい花の香りだ〉〈昔食べた母の手料理の味に似ている〉など、五感から呼び起こされる思い出も多いことでしょう。

クチナシの花言葉の一つに「喜びを運ぶ」とあるように、身近な香りや味が運んでくれる、小さな幸せを受け取りたい物です。

今日の心がけ◆五感に意識を向けましょう

                                                                                (出典:職場の教養 2023年6月号)

■経営者からの感想

この文章は、心理学の中に存在する「アンカリング」という理論を理解し、活用するための鮮やかな例となっています。そして、それは、私たちのビジネスや生活にも強く影響を与えることができます。

アンカリングとは、五感から入力する特定の情報を引き金として、それに対応させた望ましい感情や反応を引き起こす手法です。例えば、「クチナシの香り」を感じると、学生の頃の記憶が蘇り、心は安らぎ、心地よさを感じる。または、母の手料理の味が口の中に広がると、家族の温かさと愛情を再び感じる。これらはすべてアンカリングの効果です。

これはビジネスにおいても非常に有用な手法であり、特にリーダーシップにおいてはますます重要になります。例えば目標をチームに伝える時、ただそれを言葉で述べるだけでなく、具体的なイメージや感情を伴って伝えることができれば、そのメッセージはより深く、より強力に人々の心に響くことでしょう。

例えば、新しいプロジェクトを立ち上げる際には、その成功のイメージを描き出し、チーム全体で共有することで、すべてのメンバーが一丸となって取り組むことができます。それはまさに、香りを嗅いだ瞬間に感じる強烈な感情のようなものです。

さらに、我々自身のパフォーマンス向上にもアンカリングは活用できます。日々の業務において成功体験を得た際、その瞬間の感情や状況を思い出すことで、自己効力感を高め、次の挑戦に向けたエネルギーを得ることができます。

「クチナシの香り」から学ぶべきは、身近な体験や感情が、我々のパフォーマンスを向上させ、チームを一丸にする強力なエネルギーに変える可能性があることです。だからこそ、今日からは、日々の出来事を五感でしっかかり感じ、その瞬間瞬間に自身の感情をアンカーとして設定しましょう。それが快適な香りであったり、美味しい食事であったり、成功体験であったり。それらを意識的に記憶し、必要なときに思い出すことで、自身のモチベーションを高め、困難に立ち向かう力を引き出すことができます。

また、同じことをチーム全体で実践すれば、共有のアンカーとして働き、一体感を高め、組織のパフォーマンスを向上させることにつながります。それが新製品の開発での成功体験であったり、大きなプロジェクトの達成感であったり、単純に一緒に過ごした楽しい時間であったり。これらは全て、強力なアンカーとなり、組織の一体感を高め、一緒に目標に向かって努力するエネルギーを生み出します。

アンカリングは、自分自身と組織の力を引き出すための素晴らしいツールです。五感をフルに活用し、毎日をより豊かに、そして自身と組織の成長を加速させるために、あなたも早速活用することをお勧めします。

ぜひ、「クチナシの香り」に代わるあなた自身のアンカーを見つけ、感じ、活用しましょう。


今日のエピソードを踏まえたおすすめの書籍をご紹介します。

「組織のパフォーマンスが上がる 実践NLPマネジメント」(足達大和 著)

この本では、アンカリングを含む多くのNLP(神経言語プログラミング)テクニックが解説されています。アンカリングとは、人間の行動や感情を、特定の刺激(アンカー)と結びつけ、その刺激が再び現れたときに同じ行動や感情を引き出すという心理学的手法です。

著者の足達先生は、これらのテクニックを効果的に使用するための方法を明確に指南し、その中でどのように自己改善を促進し、組織のパフォーマンスを最大限に引き出すかについて詳細に説明しています。具体的なステップやアドバイスにより、読者は自身のリーダーシップスキルを強化し、組織全体を次のレベルに引き上げる方法を学ぶことができます。

感想文で述べたように、アンカリングを使って成功体験やポジティブな感情を特定の物や状況に関連付けることで、挑戦的な状況に対する自身の反応をコントロールし、目指すパフォーマンスに向かって進むことができます。この本は、その具体的な方法を教えてくれます。

今日の組織は、常に変化し成長を続けることが求められています。その中で、この本は我々がより良いリーダーシップを発揮し、組織全体を成功へと導くための価値あるガイドとなります。