5月16日(火) 自分たちの優秀さ

自分たちの優秀さ

集団の中にいると、その集団の能力を客観的に把握するのは難しいものです。社会心理学の分野には、「自分自身への評価」に関する研究が多くあります。

例えば、自分の属する集団が成功したときには、その原因を集団自身の能力や頑張りなど内的要素にあると考え、失敗したときには原因をそのときの状況など外的な要素に求める、という認知バイアスが知られています。

これは、自分の属するチームがプロジェクトを成功させたときには、「〇〇さんのおかげだ」「頑張りが実った」などと考えるのに対して、失敗に終わったときには、「状況が悪かった」「予算が少なかった」などと考えることを意味します。

ほかのチームのことについては逆に、成功の原因を「運が味方したから」など外的な要素にあると考え、失敗の原因が集団に備わる性格にあるとします。

自分や所属するチームの貢献度合いについて、主観的評価と客観的評価は異なるのが通常です。自分や所属する部署が社内でどのような貢献をしているか具体的に思い起こしていきたいものです。

今日の心がけ◆他者の視点を取り入れましょう

                                                                                (出典:職場の教養 2023年5月号)

■経営者からの感想

自己評価バイアス(Self-evaluation bias)の存在はビジネスにおけるチームの成功と成長を阻害し得る一方で、これを理解し克服することで、組織全体の能力を高めるチャンスにもなり得ます。

特に、自分たちの集団の優秀さを過剰に評価する傾向は、ビジネスの世界でもよく見られる現象です。これは、「自己奉仕バイアス(self-serving bias)」と呼ばれ、成功を自身の能力や努力に帰し、失敗を外的要素のせいにする傾向を指します。このバイアスは、リーダーシップや組織のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。

その具体的な例として、2002年に行われたスタンフォード大学の研究が挙げられます。この研究では、自己奉仕バイアスが強いリーダーが指導するチームは、他のチームと比較してパフォーマンスが低下する傾向が見られました(”Leader Self-Serving Bias and Team Performance: A Meta-Analytic Review”, Stanford University, 2002)。

また、IBMの最近の調査によると、企業のデジタルトランスフォーメーションが失敗する主な理由の一つとして、自己奉仕バイアスが挙げられました。プロジェクトの成功を自分たちの技術や能力に帰し、失敗を技術的な制約や予算不足に帰した結果、本質的な問題解決や組織的な改革が遅れたのです(”Overcoming Self-Serving Bias in Digital Transformation: An IBM study”, 2023)。

このように、自己奉仕バイアスはチームや組織のパフォーマンスを阻害する可能性があるという事実を踏まえた上で、私たちはその存在を認識し、それを克服する策を見つける必要があります。それには、外部からのフィードバックの導入、成功や失敗の原因を客観的に分析するプロセスの導入、そしてチームの自己評価を振り返る機会の設け方が含まれます。

私たちは上記の学びを活かし、自己勘定バイアスの存在を無視することなく、逆にそれを認識し、理解し、そしてそれを克服する手法を導入することで、我々は組織全体のパフォーマンスを最大化し、さらなる成長を実現していきましょう。

自己奉仕バイアスを理解し、それを克服することは、リーダーシップの要件と言えます。私たちの評価が偏っている可能性に常に留意し、自分たちの成功と失敗を客観的に分析することが重要です。その過程で、外部の視点やフィードバックを積極的に取り入れ、チーム全体の視野を広げ、パフォーマンスを向上させることが可能となります。

あなたも、自己奉仕バイアスがあなたのチームや組織のパフォーマンスにどのように影響を及ぼしているかを考え、それをどのように克服できるかを模索してみてください。それはあなたのリーダーシップの質を向上させ、組織全体の更なる成長に繋がります。あなたが率いるチームや組織が、成功と挫折の両方を通じて学び、成長し、それぞれの挑戦を最大の機会に変えることを強く願っています。

本日も、上記エピソードを踏まえたお勧めの書籍を3冊紹介します。

ビジョナリーカンパニー2

ジム・コリンズによって書かれたビジネス書で、一握りの企業がどのようにして大成功を収め、他の企業から突出した成果を達成することができたのかを分析しています。特に、「第五水準の指導者」という概念が紹介されており、これはリーダーシップの理想的な形態を表しています。

第五水準の指導者とは、個人的な謙虚さと専門的な意志の強さを兼ね備えたリーダーを指します。彼らは自己中心的ではなく、他人への賞賛を惜しまない一方で、自身の失敗に対しては責任を全うします。このようなリーダーシップスタイルは、自己奉仕バイアスとは対照的で、個人的な成功よりも組織の成功を優先しています。

ファスト&スロー (全2巻) 

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンによるこの本は、我々が日常的に抱えている多くの認知的なバイアス、特に自己勘定バイアスについて詳しく解説しています。それらのバイアスがどのように働き、どう対処すべきかについて深く理解するのに役立つ一冊です。

マインドセット

スタンフォード大学の心理学者であるキャロル・デュエック教授が、しなやかマインドセットと硬直マインドセットについて語るこの本は、成功と失敗に対する我々の見方を変える力があります。自己奉仕バイアスと戦うためには、失敗を学びの機会と捉えるしなやかマインドセットが不可欠です。

これらの本は、自己評価バイアスを理解し、克服するための視点とツールを提供します。これらを読むことで、より効果的なリーダーシップを発揮し、チームや組織のパフォーマンスを向上させるための知識を深めることができるでしょう。